優秀な人が辞める会社には何があるのか?――歴史に学ぶ『人を活かす組織』」






会社には、優秀な人がいる。

仕事が早い。

判断が的確だ。

周囲から信頼されている。

難しい仕事を任せても結果を出す。

ところが、そんな人ほど突然会社を辞めることがある。

周囲は驚く。

「なぜ辞めるんだろう?」

「給料に不満があったのだろうか?」

「もっといい会社が見つかったのだろうか?」

もちろん、転職の理由は人によって違う。

待遇かもしれない。

仕事内容かもしれない。

家庭の事情かもしれない。

しかし、もし優秀な人が何人も同じ会社を辞めているとしたら、個人の問題だけではない可能性がある。

そこには、

「人を活かせない組織」

という問題が隠れているかもしれない。

歴史を振り返っても、優れた人物を適切に活用できた組織と、そうでなかった組織には大きな違いがある。

今回は、歴史上の人物や組織を題材にしながら、

「なぜ優秀な人が辞めるのか」

そして、

「人を活かせる組織には何があるのか」

について考えてみたい。



優秀な人が辞める理由は「給料」だけではない


社員が会社を辞めるとき、まず考えられるのが待遇である。

給料が安い。

昇給しない。

福利厚生が悪い。

もちろん、これは大きな理由になる。

しかし、それだけでは説明できない退職もある。

給料が悪くないのに辞める。

待遇も悪くないのに辞める。

仕事内容にも大きな不満がないのに辞める。

なぜなのだろうか。

その場合、

「自分の能力を活かせない」

という問題が隠れていることがある。



優秀な人ほど「成長できない環境」を嫌う


仕事ができる人は、自分の能力を高めたいと考えることが多い。

新しい仕事をしたい。

難しい仕事に挑戦したい。

責任のある仕事を任されたい。

自分の考えを試したい。

ところが、

「前からこうやっているから」

「余計なことをするな」

「あなたは言われたことだけやればいい」

という組織では、能力を発揮しにくい。

最初は我慢するかもしれない。

しかし、長く続けば、

「ここにいても成長できない」

と感じるようになる。

そして、別の場所を探し始める。



「優秀な人を採用する」だけでは意味がない


会社は優秀な人材を採用しようとする。

採用活動では、

「優秀な人材を求めています」

と宣伝する。

しかし、採用した後に、

「自分の判断で動くな」

「今までのやり方を変えるな」

「上司の指示に従え」

と言い続けたらどうなるだろうか。

優秀な人ほど違和感を持つ。

なぜなら、

能力を期待されて採用されたのに、能力を使うことを許されない

からだ。

これは非常にもったいない。



人を活かすとは「好きにさせる」ことではない


では、優秀な人に自由に仕事をさせればいいのだろうか。

そう単純でもない。

組織にはルールが必要だ。

会社としての方針も必要だ。

予算もある。

顧客との約束もある。

だから、

「何をしてもいい」

という意味での自由ではない。

重要なのは、

「目的を共有したうえで、一定の範囲で判断を任せる」

ことである。

これは、前回までの記事で扱った「任せる力」ともつながっている。



任せなければ、人は育たない


前回の記事では、

「なぜ優秀な人ほど仕事を抱え込むのか」

について考えた。

そこで、

「自分でやったほうが早い」

という考え方が、長期的には組織を弱くする可能性について書いた。

今回も同じだ。

上司がすべてを決める。

部下は指示されたことだけをする。

失敗すると上司が修正する。

これでは、部下はいつまでも自分で判断できない。

優秀な人ほど、

「自分に判断させてもらえない」

ことに不満を感じる。

そして、

「自分で考えて仕事ができる環境」

を求めるようになる。



歴史上の組織でも「人の使い方」が重要だった


歴史を振り返ると、大きな仕事を成し遂げた人物ほど、一人ですべてをやっているわけではない。

自分より優秀な人を認める。

専門家を活用する。

適切な人物に役割を与える。

そして、任せる。

これは組織を動かすうえで極めて重要な能力だった。

逆に、

「自分より優秀な人間を嫌う」

「自分の意見に反対する人を遠ざける」

「能力よりも忠誠心を優先する」

という組織は、次第に人材を失っていく。



児玉源太郎から考える「人を活かす」


これまでの記事でも取り上げた児玉源太郎を考えてみたい。

大規模な組織を動かす場合、トップ一人ですべてを判断することはできない。

必要なのは、

適材適所

である。

誰が情報を集めるのか。

誰が作戦を考えるのか。

誰が現場を指揮するのか。

誰が補給を担当するのか。

それぞれの能力を見極めて配置する。

そして、必要な仕事を任せる。

組織の力とは、単純に優秀な人間の人数ではない。

それぞれの能力を、適切な場所で発揮させられるかどうか

で決まる。



「優秀な人を同じ型にする」必要はない


会社では、

「社員全員に同じ能力を求める」

ことがある。

しかし、人には得意不得意がある。

営業が得意な人。

分析が得意な人。

文章を書くのが得意な人。

人をまとめるのが得意な人。

新しいアイデアを考えるのが得意な人。

細かいミスを見つけるのが得意な人。

すべての人に同じ能力を求める必要はない。

むしろ、

違う能力を持った人を組み合わせる

ことに組織の強さがある。



「自分と似た人」ばかり集める危険


上司は、自分と似たタイプの人を評価しやすい。

自分と同じ考え方。

自分と同じ働き方。

自分と同じ価値観。

そういう人とは話が合う。

だから、

「彼は優秀だ」

と思いやすい。

しかし、それでは組織が同質化してしまう。

全員が同じ考え方なら、意思決定は早い。

しかし、誰も違う視点を持っていない。

その結果、前回の記事で扱った、

「反対意見が出ない組織」

になってしまう。



優秀な人が「面倒な人」に見えることがある


優秀な社員が、

「この方法では問題があります」

と言う。

「この数字はおかしくありませんか?」

と聞く。

「もっと別のやり方があります」

と提案する。

上司から見ると、面倒に感じることがある。

「細かいことを言うな」

「今までこれでやってきた」

「とりあえず言われた通りにやってくれ」

と言いたくなる。

しかし、その「面倒な人」がいなくなった後で、

「誰も問題を指摘してくれない」

と気づくことがある。

これは非常に皮肉な話だ。



「反対する人」は組織に必要である


前回の記事では、

「なぜ会議では反対意見が出なくなるのか」

について考えた。

そこで、

反対意見を言える組織の重要性

について書いた。

今回のテーマも同じだ。

人を活かす組織では、

「自分と違う意見を持つ人」

を排除しない。

むしろ、

「その意見には何か重要な情報が含まれているかもしれない」

と考える。

優秀な人を活かすとは、

「自分の言うことを聞かせる」

ことではない。

「その人が持っている能力や視点を組織のために使えるようにする」

ことなのだ。



人は「評価されない」と辞めたくなる


人間は、自分の仕事を認めてもらいたい。

これは自然な感情だ。

「ありがとう」

「助かった」

「この仕事はあなたに任せてよかった」

と言われるだけでも、仕事への意欲は変わる。

逆に、成果を出しても何も言われない。

失敗したときだけ注意される。

他人の成果として扱われる。

こうした環境では、

「頑張っても意味がない」

と感じやすくなる。

そして、会社を辞める理由になる。



「評価」と「お世辞」は違う


もちろん、社員を褒めればいいという話ではない。

何でも、

「すごい」

「よくできた」

と言っていればいいわけではない。

重要なのは、

具体的に何が良かったのかを伝えること

だ。

「今回の資料は、数字の根拠が明確で分かりやすかった」

「顧客への対応が早かったから、問題が大きくならなかった」

こうした具体的な評価なら、本人も何が評価されたのか分かる。

そして、次の仕事にも活かせる。



人を活かす組織は「失敗の扱い」も違う


前回の記事では、

「失敗したとき、誰の責任にするべきか」

について考えた。

ここでも、人を活かす組織とそうでない組織には違いがある。

失敗すると、

「誰がやった?」

「お前の責任だ」

と個人を責める組織。

一方で、

「何が起きた?」

「なぜ起きた?」

「次はどう防ぐ?」

と考える組織。

もちろん、重大なルール違反などには責任を問う必要がある。

しかし、正直に失敗を報告した人まで罰するような組織では、次第に情報が上がってこなくなる。

そして、優秀な人ほど、

「この会社では本当のことを言えない」

と感じるかもしれない。



優秀な人が辞める前には「サイン」がある


突然退職届が出てくるように見えても、実際にはその前から変化が起きていることがある。

例えば、

  • 会議で発言しなくなる
  • 新しい提案をしなくなる
  • 仕事について質問しなくなる
  • 最低限の仕事しかしなくなる
  • 周囲との関係が薄くなる
  • 「どうせ言っても変わらない」と言う
  • 将来の話をしなくなる


こうした変化があるなら注意したい。

もちろん、これだけで退職を予測することはできない。

しかし、

「人が会社に期待することが減っている」

可能性はある。



「どうせ言っても変わらない」は危険な言葉


会社で、

「何か改善案はありますか?」

と聞いたとき、

「言っても変わらないですよ」

と返ってくる。

これは非常に危険な状態だ。

社員が無関心なのではない。

むしろ以前は、何かを変えようとしていたのかもしれない。

しかし、

提案する。

採用されない。

理由も説明されない。

また提案する。

やはり変わらない。

これを繰り返せば、

「言っても無駄」

という学習が起きる。

そして、人は黙る。



人を活かすには「任せて、聞いて、説明する」


ここまでの連載を整理すると、人を活かす組織には三つの要素がある。

任せる。

仕事を任せ、判断する機会を与える。

聞く。

反対意見や現場の情報を聞く。

説明する。

なぜその判断をしたのかを伝える。

この三つが重要だ。

特に三つ目は見落とされやすい。

社員の提案を採用しないこと自体は問題ではない。

しかし、

「なぜ採用しなかったのか」

を何も説明しなければ、

「どうせ何を言っても無駄」

となってしまう。



「任せる」だけでも不十分


前回の記事では「任せる力」について書いた。

しかし、人に仕事を任せればそれだけで人材が育つわけではない。

任せた後に、

「どうだった?」

と聞く。

困ったことはなかったか確認する。

必要なら助言する。

結果を一緒に振り返る。

そして、次はもう少し難しい仕事を任せる。

この繰り返しで、人は成長する。

つまり、

任せることと放置することは違う。



「人を活かす」とは、その人の将来まで考えること


会社にとって社員は「今の仕事をする人」だけではない。

将来のリーダーになるかもしれない。

専門家になるかもしれない。

後輩を育てる人になるかもしれない。

だから、

「今、この仕事ができるか」

だけを見るのではなく、

「この人はこれから何ができるようになるだろうか」

と考える。

仕事を任せる。

経験を与える。

失敗から学ばせる。

必要な教育をする。

こうした積み重ねが、人材を育てる。



組織の価値は「人材の使い方」で決まる


同じ能力を持った人が二人いるとする。

一人は、

「言われたことだけやってください」

という会社に入った。

もう一人は、

「この目的を達成するために、あなたならどう考える?」

と言われる会社に入った。

数年後、二人の能力に差がついている可能性がある。

もちろん、人間の成長には本人の努力も関係する。

しかし、環境が人を育てることも確かだ。

だから、

人材の価値は本人の能力だけでは決まらない。

その能力を発揮できる環境があるかどうかも重要である。



歴史から学ぶ「人を活かす組織」


歴史を学ぶと、組織の強さはトップ一人の能力だけでは決まらないことが分かる。

優秀な人を見つける。

適切な場所に配置する。

能力を発揮できる環境を作る。

必要な権限を与える。

意見を聞く。

失敗したら修正する。

そして、次の人材を育てる。

これを繰り返すことで、組織は強くなる。

逆に、

「トップの言うことだけを聞く人」

ばかりを集めれば、短期的には統制が取れるかもしれない。

しかし、長期的には組織から多様な能力が失われていく。



優秀な人を辞めさせないために、何をすればいいのか


ここまでを、会社で実践できる形にまとめてみたい。

まず、

1.仕事を任せる

「自分でやったほうが早い」と思っても、将来を考えて任せる。

2.意見を聞く

「何かありますか?」ではなく、具体的に聞く。

3.反対意見を歓迎する

自分と違う意見を敵視しない。

4.失敗を分析する

犯人探しだけで終わらせない。

5.成果を具体的に評価する

何が良かったのかを伝える。

6.判断の理由を説明する

採用しなかった意見にも、可能な範囲で理由を説明する。

7.成長する機会を与える

少しずつ難しい仕事を任せる。

この七つだけでも、組織の雰囲気はかなり変わる可能性がある。



本当に優秀な人は「会社」ではなく「環境」を選ぶ


優秀な人が転職するとき、

「この会社が嫌いだから」

という理由だけとは限らない。

もっと、

「自分の能力を使いたい」

「もっと成長したい」

「新しい仕事に挑戦したい」

という前向きな理由かもしれない。

だから会社側が考えるべきなのは、

「どうすれば社員を辞めさせないか」

だけではない。

むしろ、

「この会社に残ることで、もっと成長できると思ってもらえるか」

である。



「辞めない会社」より「活躍できる会社」


ここで一つ注意したい。

社員を辞めさせなければ、それで良い会社とは限らない。

会社に不満があっても辞められない人もいる。

だから、

「離職率が低い」

だけを目標にしてはいけない。

重要なのは、

人が能力を発揮して、成長できること

である。

その結果として、

「この会社で仕事を続けたい」

と思ってもらえるなら理想的だ。



まとめ――人を活かす組織には「余白」がある


優秀な人が辞める会社には、必ずしも低い給料や悪い待遇があるとは限らない。

もしかすると、

「任せてもらえない」

「意見を聞いてもらえない」

「失敗すると責められる」

「成果を認めてもらえない」

「成長する機会がない」

という問題があるのかもしれない。

優秀な人ほど、自分の能力を活かしたいと思う。

だから、人を活かす組織には、

任せる余白

がある。

意見を言う余白

がある。

失敗から学ぶ余白

がある。

成長する余白

がある。

すべてを上司が決める。

失敗すれば個人を責める。

反対意見を嫌う。

新しいことをやらせない。

そんな組織では、人材の能力は十分に発揮されない。

そして、能力のある人から順番に、

「ここにいても仕方がない」

と考えるようになるかもしれない。

歴史を振り返っても、大きな仕事を成し遂げた組織は、一人の英雄だけで動いていたわけではない。

さまざまな能力を持った人間を見つけ、

適切な場所に配置し、

仕事を任せ、

意見を聞き、

失敗から学び、

次の人材を育てていた。

だから、会社の強さを考えるとき、

「どれだけ優秀な人を採用したか」

だけでは不十分だ。

本当に重要なのは、

「その人の能力を、組織の中でどれだけ活かせているか」

なのだと思う。

優秀な人が辞めることを、

「本人が会社に合わなかった」

という一言で片づけるのは簡単だ。

しかし、もし同じような人が何人も辞めているのなら、一度立ち止まって考えてみたい。

「辞めた人に問題があったのか。
それとも、能力を活かせない組織になっていなかったか。」

この問いを持つことが、組織を変える最初の一歩になるのかもしれない。





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