なぜ悪い情報は上司に伝わらないのか?歴史から学ぶ「情報が止まる組織」の問題





会社で働いていると、こんな場面に遭遇することがある。

「このプロジェクト、実はかなり問題があります」

現場の社員はそう思っている。

しかし、その情報が上司に届くころには、

「少し問題があります」

になっている。

さらに上の管理職に報告されるころには、

「現在、対応中です」

になっている。

そして経営者のところまで届くころには、

「おおむね順調です」

となっている。

もちろん、すべての会社でこのようなことが起きているわけではない。

しかし、組織が大きくなるほど、情報が途中で変化する危険性は高くなる。

これは現代の会社だけの問題ではない。

歴史を振り返っても、正確な情報が意思決定者に届くかどうかは、組織の命運を左右する重要な問題だった。

前回の記事では、「失敗する組織」の特徴について考えた。

今回はその中でも特に重要な、

「なぜ悪い情報が上に届かなくなるのか」

という問題について考えてみたい。


情報は「ある」だけでは意味がない


前回の記事で、失敗を防ぐためには情報が重要だと書いた。

しかし、ここには一つ落とし穴がある。

情報が存在しているだけでは意味がない。

現場が問題を把握していても、意思決定者が知らなければ対策を取れない。

例えば、会社で重大なトラブルが発生したとする。

現場担当者は、

「このままでは納期に間に合わない」

と分かっている。

しかし、上司に報告しない。

あるいは、上司に報告したものの、

「まだ何とかなると思います」

と伝える。

その結果、経営者は問題が存在することを知らない。

そして、納期直前になって初めて重大な問題が発覚する。

ここで問題なのは、情報がなかったことではない。

情報が正しく伝わらなかったことである。



情報には「鮮度」がある


情報は、生鮮食品に少し似ている。

早く伝えなければ価値が下がる情報がある。

例えば、

「顧客からクレームが入った」

という情報。

発生した当日に知れば、すぐに対応できる。

しかし、一週間後に知れば、その間に問題が拡大しているかもしれない。

さらに一か月後なら、顧客との関係がすでに悪化している可能性がある。

つまり、

正しい情報でも、伝わるのが遅ければ役に立たなくなる。

戦争でも同じだ。

敵がどこにいるのか。

敵がどちらへ移動しているのか。

味方の部隊はどこにいるのか。

補給は足りているのか。

こうした情報は、時間によって価値が変化する。

昨日の情報と今日の情報が同じ価値を持つとは限らない。



なぜ人は悪い情報を伝えたくなくなるのか


では、なぜ悪い情報は上司に伝わりにくいのだろうか。

理由はいくつもある。

一つは、

怒られるのが怖いから

である。

「こんなミスをしたのか」

「なぜもっと早く報告しなかった」

「君の責任ではないのか」

と言われることを恐れる。

だから、問題を小さく見せようとする。

もう一つは、

自分の評価を下げたくないから

だ。

「この仕事は順調です」

と言えば、自分の評価には悪影響がない。

「問題があります」

と言えば、

「仕事ができないのではないか」

と思われるかもしれない。

こうして、情報が上に行くほど楽観的な内容に変化する。



「悪い情報を伝える人」が損をする組織


ここが非常に重要だ。

もし、

「悪い情報を早く報告した人」

が怒られる組織だったら、どうなるだろうか。

社員は悪い情報を報告しなくなる。

問題が小さいうちは隠す。

どうしても隠せなくなった段階で報告する。

結果として、経営者が問題を知ったときには、すでに手遅れになっている。

これは非常に危険な状態だ。

逆に、

「早く報告してくれてありがとう」

と言われる組織ならどうだろう。

社員は問題を早く報告する。

上司も早く対処できる。

小さな問題のうちに修正できる。

つまり、

悪い情報を報告した人をどう扱うか

が、組織の情報品質を左右する。



上司が「悪い情報を聞きたくない人」だとどうなるか


さらに問題なのは、部下ではなく上司側にある場合だ。

例えば、上司が新しいプロジェクトを強く推進しているとする。

部下が、

「この計画には問題があります」

と言う。

すると上司が、

「そんな弱気なことを言うな」

「やる前から失敗することを考えるな」

「とにかくやってみよう」

と返す。

一度なら問題ないかもしれない。

しかし、何度も続けば、部下は学習する。

「この上司には悪い情報を言ってはいけない」と。

そうなると、次から誰も問題を報告しなくなる。

上司は、

「最近は問題がないな」

と思う。

しかし実際には、問題がなくなったのではない。

問題が見えなくなっただけである。



「報告がない」ことと「問題がない」ことは違う



これは管理職にとって非常に重要なポイントだ。

部下から何も報告がない。

だから、

「順調に進んでいる」

とは限らない。

もしかすると、

「報告しても無駄」

と思われているかもしれない。

あるいは、

「報告すると怒られる」

と思われているかもしれない。

だから、リーダーは、

「何か問題はないか?」

と一度聞くだけでは不十分だ。

むしろ、

「今、一番うまくいっていないことは何か?」

「私が見落としている問題はないか?」

「この計画が失敗するとしたら、原因は何だと思うか?」

と聞く方がいい。



「反対意見」を求める


意思決定をするとき、リーダーは賛成意見を集めたくなる。

「この企画で問題ないですね?」

と聞けば、

「はい」

という答えが返ってくる。

しかし、それでは本当の問題は見えない。

そこで、

「この案の最大の問題点は何だと思いますか?」

と聞いてみる。

すると、今まで出てこなかった意見が出てくる可能性がある。

さらに、

「あなたが反対するとしたら、どこを問題視しますか?」

と聞いてみる。

こうすると、部下も「反対意見を言っていいのだ」と理解できる。

これは会社の会議でも使える方法だ。



秋山真之に学ぶ「情報を集める」ということ


ここで、連載の最初に取り上げた秋山真之に戻りたい。

秋山真之についての記事では、情報収集の重要性について考えた。

しかし、情報収集には二つの段階がある。

一つ目は、

情報を集めること。

二つ目は、

集めた情報を正しく伝えること。

どれだけ優れた情報収集能力があっても、必要な人に情報が伝わらなければ意味がない。

そして、伝える側にも問題がある。

都合の悪い情報を隠す。

重要度を低く見せる。

古い情報をそのまま使う。

自分に都合のいい部分だけ伝える。

こうなれば、情報はあっても意思決定を誤る。



児玉源太郎から考える「情報を整理する仕事」


前回までの記事で取り上げた児玉源太郎にも、この問題を考えるヒントがある。

大規模な組織では、現場から大量の情報が上がってくる。

しかし、情報をそのままトップに渡せばいいわけではない。

情報が多すぎれば、トップは判断できなくなる。

そこで必要なのが、

情報を整理する仕事

である。

何が重要なのか。

何が緊急なのか。

何が事実なのか。

何が推測なのか。

どこに問題があるのか。

こうした情報を整理して、意思決定者に伝える。

これが参謀の重要な仕事の一つだ。

会社でも同じだ。

上司に、

「いろいろ問題があります」

と報告するだけでは足りない。

「現在、三つの問題があります。そのうち一つは今日中に対応が必要です」

と整理して伝える。

これだけでも、意思決定のしやすさは大きく変わる。



良い報告は「事実」と「意見」を分ける


報告するときに重要なのが、

事実と意見を分けること

である。

例えば、

「顧客はこの商品に不満を持っています」

という報告。

これは本当に顧客がそう言ったのか。

それとも担当者がそう感じただけなのか。

ここを分けなければならない。

より良い報告なら、

「昨日、顧客から『納期が長い』という指摘があった」

という事実をまず伝える。

そのうえで、

「このままでは次回発注を失う可能性があると考えています」

と意見を伝える。

この二つを分けるだけで、情報の精度は高くなる。



「悪い情報ほど早く」が基本


仕事の報告には、

悪い情報ほど早く伝える

という原則がある。

良いニュースは多少遅れても取り返せることがある。

しかし、悪いニュースは時間が経つほど問題が大きくなる。

納期遅延。

顧客クレーム。

品質問題。

予算超過。

人員不足。

システム障害。

こうした問題は、早く知れば対応できる。

遅く知れば、選択肢がなくなる。

だから、上司にとって最もありがたい部下とは、

「問題を起こさない人」

だけではない。

「問題を早く知らせてくれる人」

でもある。



良いリーダーは「報告しやすい人」である


リーダーというと、

決断力がある。

仕事ができる。

指示が明確。

部下を引っ張る。

こうした能力が注目される。

しかし、もう一つ重要な能力がある。

「部下から本当のことを言ってもらえる能力」

である。

どれだけ頭が良くても、正しい情報が入ってこなければ正しい判断はできない。

だから、リーダーは、

「自分が優秀だから判断できる」

と思ってはいけない。

正しい情報が集まる環境を作ることも、リーダーの仕事である。



自分自身にも「悪い情報」を入れる


これは会社だけの話ではない。

個人にも当てはまる。

例えば、自分のブログの記事について考えてみる。

「この記事はよく書けた」

と思う。

しかし、本当に読者にとって価値があるのかは分からない。

アクセス数を見る。

検索順位を見る。

読者の反応を見る。

滞在時間を見る。

場合によっては、記事を削除したり、書き直したりする。

これは、

自分にとって都合の悪い情報を見る

ということだ。

仕事でも同じだ。

「自分は頑張っている」

という自己評価だけではなく、

「成果は出ているのか」

「相手からどう評価されているのか」

という情報を見る必要がある。



「耳の痛い情報」を歓迎する


成長する人には共通点がある。

耳の痛いことを言われたときに、

「なぜそんなことを言うのか」

と反発するだけではなく、

「もしかしたら自分に見えていない問題があるのではないか」

と考える。

もちろん、すべての批判が正しいわけではない。

しかし、批判の中に重要な情報が含まれている可能性はある。

だから、

批判を受け入れること

批判に従うこと

を分けて考えればいい。

まず聞く。

事実を確認する。

必要なら修正する。

違うと思えば、その理由を考える。

これが成熟した情報処理だと思う。



まとめ――情報が止まる組織は、判断も止まる


今回考えたかったのは、

「悪い情報をどう扱うか」

という問題だった。

情報は、存在しているだけでは意味がない。

必要な人に、

必要なタイミングで、

正確に伝わって、

初めて意思決定に使える。

そのためには、

  • 悪い情報を早く報告する
  • 事実と意見を分ける
  • 反対意見を歓迎する
  • 報告した人を必要以上に責めない
  • 情報を整理して伝える
  • リーダー自身が耳の痛い話を聞く


ことが重要になる。

そして、最も危険なのは、

「問題がない組織」ではない。

「問題があるのに、問題がないように見える組織」である。

問題が見えていれば、修正できる。

悪い情報が上がってくれば、対応できる。

しかし、情報が止まれば、リーダーは何もできない。

歴史上の大きな失敗を考えるときも、単純に「誰が悪かったのか」を探すだけでは十分ではない。

なぜ問題が見えていたのに、組織として修正できなかったのか。

この問いを持つことが重要なのだ。

会社でも同じだ。

上司にとって本当に価値のある部下とは、いつも「順調です」と言う人ではない。

「実は問題があります。今ならまだ対応できます」

と教えてくれる人かもしれない。

そして、本当に強いリーダーとは、

「悪い情報を持ってきた人を怒らない人」

なのだと思う。





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