なぜ日本軍は失敗したのか?歴史から学ぶ「失敗を繰り返す組織」の特徴
歴史を学ぶとき、成功した人物や勝利した戦いに目が向きやすい。
東郷平八郎。
秋山真之。
児玉源太郎。
山本五十六。
これまでの記事でも、彼らの判断や仕事の進め方について考えてきた。
しかし、歴史から本当に学ぶためには、成功した事例だけを見るのでは不十分だ。
むしろ重要なのは、
「なぜ失敗したのか」
「なぜ同じ失敗を繰り返したのか」
「失敗していることに、なぜ途中で気づけなかったのか」
という問いである。
今回は、第二次世界大戦における日本軍の失敗を題材に、失敗する組織にはどのような特徴があるのかを考えてみたい。
もちろん、戦争と現代の会社経営を同列に扱うことはできない。
しかし、
- 情報が正しく共有されない
- 悪い報告が上に届かない
- 過去の成功体験に依存する
- 組織内で意見を言えなくなる
- 失敗の責任を曖昧にする
といった問題は、現代の組織でも起こり得る。
歴史を学ぶ意味は、過去を批判することだけではない。
同じような失敗を、自分たちが繰り返さないために考えることにある。
「失敗したからダメな組織」ではない
まず考えたいのは、失敗そのものが問題なのではないということだ。
どんな人間でも、どんな会社でも、失敗する。
新商品が売れない。
採用した人材が定着しない。
新規事業が赤字になる。
予想していた市場が成長しない。
こうしたことは珍しくない。
重要なのは、
失敗した後に何をするか
である。
失敗から原因を分析し、次の行動を変えることができれば、その失敗には意味がある。
逆に、
「今回は運が悪かった」
「担当者の能力が低かった」
「次は頑張ろう」
だけで終われば、同じ失敗を繰り返す可能性が高い。
つまり、問題なのは失敗そのものではない。
失敗から学習できないことである。
過去の成功が、未来の失敗を生むことがある
組織にとって怖いものの一つが、過去の成功体験だ。
成功した経験は、自信につながる。
しかし、その成功した方法がいつまでも通用するとは限らない。
市場が変わる。
技術が変わる。
競合が変わる。
顧客のニーズが変わる。
それなのに、
「これまでこの方法で成功してきた」
という理由だけで同じ方法を続けてしまう。
これは会社でもよくある。
昔から売れている商品だから、新しい商品を開発しない。
昔から続いている営業方法だから、顧客の変化を無視する。
以前成功した広告手法だから、環境が変わっても同じ方法を使う。
成功体験は、本来なら財産である。
しかし、それを「絶対に正しい方法」だと思い込んだ瞬間、足かせになる。
日本軍の問題を「精神論」だけで説明しない
第二次世界大戦における日本軍の失敗について語ると、
「精神論に頼ったから失敗した」
という説明がされることがある。
確かに、精神力を重視しすぎた問題は重要だ。
しかし、それだけでは十分ではない。
戦争には、
- 情報
- 補給
- 生産力
- 技術
- 教育
- 組織構造
- 指揮命令系統
- 戦略
など、非常に多くの要素が関係する。
一つの原因だけで大きな失敗を説明することはできない。
これは会社の失敗を分析するときにも同じだ。
「社長が悪かった」
「担当者が無能だった」
「営業が弱かった」
という一言で片付けると、本当の原因が見えなくなる。
重要なのは、
なぜその問題が組織の中で発生し、それがなぜ修正されなかったのか
を考えることだ。
悪い情報が上に届かない組織は危険だ
組織が大きくなるほど、情報は途中で変化する。
現場では、
「この計画には問題があります」
と言っている。
しかし、上司に報告すると、
「少し問題があります」
になる。
さらに上に行くと、
「おおむね順調です」
になってしまう。
これではトップは正しい判断ができない。
リーダーが悪いのではなく、判断材料が間違っているからだ。
だから、組織のリーダーにとって重要なのは、
「良い報告を聞くこと」
ではない。
悪い報告が自分のところまで届く仕組みを作ることである。
これは前回の山本五十六の記事ともつながる。
意思決定の質は、意思決定者の能力だけで決まらない。
どんな情報が上がってくるのかによっても決まる。
「言いにくいこと」を言える組織を作る
会社の会議で、
「その計画は失敗する可能性があります」
と言うのは勇気がいる。
特に、上司がその計画を強く推進している場合はなおさらだ。
だからこそ、リーダーには、
「反対意見を言っても大丈夫」
という環境を作る責任がある。
もちろん、何でも反対すればいいわけではない。
重要なのは、
反対意見を出せること
と、
反対意見を聞いたうえで決断できること
だ。
意見が一致していることが、必ずしも良い組織ではない。
むしろ、重要な問題について、
「本当にこれで大丈夫なのか」
と問い直す人がいる組織の方が、強い場合がある。
「誰が悪かったのか」だけを探すと失敗は繰り返される
失敗が起きると、責任者を探したくなる。
もちろん、責任を明確にすることは必要だ。
しかし、
「誰が悪かったのか」
だけを追及すると、別の問題が起きる。
社員が失敗を隠すようになるからだ。
失敗を報告すると怒られる。
だから報告しない。
問題が大きくなる。
さらに大きな失敗になる。
この悪循環が生まれる。
必要なのは、
責任追及と原因分析を分けること
である。
誰が担当していたのかを確認する。
それとは別に、
「なぜこの失敗が起きたのか」
を調べる。
そして、
「次に同じことを防ぐにはどうすればいいか」
を考える。
この三つを分けて考える必要がある。
「失敗を許す」と「無責任」は違う
ここは非常に重要だ。
「失敗から学ぼう」
というと、
「失敗しても責任を取らなくていい」
と誤解されることがある。
しかし、それは違う。
失敗には、
防ぐことができた失敗
と、
予測することが難しかった失敗
がある。
例えば、確認を怠って起きたミスなら、再発防止策を考える必要がある。
一方、十分に調査しても予測できなかった市場変化なら、単純に担当者を責めても意味がない。
だから、
「失敗した」
という事実だけを見るのではなく、
その失敗は予測できたのか、防げたのか
を考える必要がある。
歴史を「答え」ではなく「問い」として使う
歴史を学ぶときに注意したいことがある。
「この人物は正しかった」
「この人物は間違っていた」
と簡単に結論を出さないことだ。
歴史上の人物は、その時代の情報しか持っていない。
現在の私たちは、結果を知っている。
しかし、当時の人間には未来が見えていなかった。
これは非常に大きな違いである。
例えば、ある決断が失敗したとしても、
「結果を知っている現在の自分なら絶対に同じ判断をしない」
とは限らない。
当時の情報をすべて並べたうえで、
「自分ならどう判断するか」
と考えてみる。
その方が歴史から学ぶことができる。
会社でできる「失敗の棚卸し」
では、歴史の話を自分の仕事にどう応用すればいいのか。
おすすめしたいのが、失敗の棚卸しである。
例えば、最近の仕事を一つ取り上げて、次の5つを考えてみる。
① 何が起きたのか
事実だけを書く。
② なぜ起きたのか
原因を考える。
③ いつ問題に気づけたのか
もっと早く発見できなかったか考える。
④ なぜ修正できなかったのか
情報、組織、人間関係などを見る。
⑤ 次回は何を変えるのか
具体的な行動に落とし込む。
これだけでも、単なる「反省会」から一歩進んだ分析になる。
成功よりも失敗を分析した方が成長できる
成功したとき、人は、
「自分のやり方が正しかった」
と思いやすい。
しかし、本当にその方法が正しかったのかは分からない。
市場環境が良かっただけかもしれない。
競合が弱かっただけかもしれない。
偶然うまくいっただけかもしれない。
逆に失敗したときには、
「なぜ失敗したのか」
を詳しく調べる必要がある。
だから、成長という意味では、成功した仕事だけを振り返るよりも、
失敗した仕事を丁寧に分析する方が学びが大きいことがある。
これは個人でも組織でも同じだ。
「失敗を恐れない」より「失敗を隠さない」
よく、
「失敗を恐れるな」
と言われる。
もちろん、それも大切だ。
しかし、組織にとってもっと重要なのは、
失敗を隠さないこと
ではないだろうか。
失敗そのものは起きる。
問題は、その失敗が見えなくなることだ。
小さなミスを報告できる。
問題を早期に共有できる。
上司に悪い情報を伝えられる。
そして、組織全体で修正する。
これができれば、大きな事故を防げる可能性がある。
まとめ――歴史から学ぶべきなのは「成功法則」だけではない
これまでの連載では、秋山真之から情報収集を、東郷平八郎から準備と指揮を、児玉源太郎から組織を動かす力を、山本五十六から意思決定について考えてきた。
今回は、その反対側に目を向けた。
失敗する組織には何が起きているのか。
重要なのは、単純に「日本軍は失敗した」と結論づけることではない。
むしろ、
- 悪い情報が上に届いているか
- 反対意見を言えるか
- 過去の成功に依存していないか
- 責任追及だけで終わっていないか
- 失敗から具体的な改善をしているか
を考えることだ。
これは現代の会社でも同じである。
どんな会社でも失敗する。
どんな人でも失敗する。
だからこそ重要なのは、
「失敗しないこと」ではなく、「失敗したときに学習できること」
なのだと思う。
そして、個人にとっても組織にとっても、最も危険なのは失敗そのものではない。
同じ失敗を、何度も繰り返すことだ。
歴史は、過去の人々を裁くためだけにあるのではない。
「自分たちなら、同じ状況でどうするだろうか」
と考えるためにある。
そう考えると、歴史上の失敗は、現在を生きる私たちにとって非常に価値のある教材になる。
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