後継者が育たない組織はなぜ衰退するのか?――歴史に学ぶ「次のリーダー」の育て方






はじめに

会社や組織には、優秀なリーダーがいる。

判断が速い。

仕事ができる。

部下からも信頼されている。

その人物がいる間は、組織も順調に動いている。

ところが、そのリーダーが異動したり、退職したり、引退した途端に、組織の力が落ちてしまうことがある。

「なぜ、あの人がいなくなっただけで、こんなに変わってしまったのだろう」

そんな経験をしたことがある人もいるかもしれない。

これは会社だけの問題ではない。

歴史を振り返っても、優秀な指導者が去った後に組織が弱体化する例は少なくない。

そこで重要になるのが、

「次のリーダーを育てる」

という考え方である。

優秀なリーダーがいることは大切だ。

しかし、本当に強い組織とは、

優秀なリーダーがいなくなっても、次の人が組織を動かせる組織

なのではないだろうか。



「自分がいなければ困る」は、本当に良いことなのか



仕事ができる人ほど、

「自分がいないと、この仕事は回らない」

という状態になりやすい。

本人に悪意はない。

責任感が強いからだ。

部下に任せるより、自分でやったほうが早い。

自分が一番事情を分かっている。

自分なら失敗しない。

その結果、重要な仕事や情報が一人に集中する。

周囲から見ると、

「この人がいるから安心だ」

となる。

しかし、ここには大きな問題がある。

その人がいなくなったら、どうなるのか。



「属人化」は組織の弱点になる


特定の人しか分からない仕事。

特定の人しか知らない情報。

特定の人しかできない判断。

これを「属人化」という。

属人化は、短期的には効率がいい。

仕事のできる人に任せれば、早く正確に処理できる。

しかし、長期的にはリスクになる。

その人が休む。

異動する。

退職する。

あるいは突然仕事ができなくなる。

その瞬間、組織が混乱する。

だから、

「自分がいなくても回るようにする」

ことは、組織を弱くするどころか、強くする行為なのである。



本当に優秀なリーダーは「自分のコピー」を作らない


後継者を育てるとき、ありがちな間違いがある。

「自分と同じ人間を育てよう」

とすることだ。

自分と同じ考え方。

自分と同じ仕事の進め方。

自分と同じ判断方法。

しかし、それでは次のリーダーは育ちにくい。

なぜなら、

次の時代には、次の時代の問題が発生するからだ。

今のリーダーと同じ能力だけでは対応できないかもしれない。

だから重要なのは、

「自分と同じ人間を作る」

ことではない。

「自分とは違う方法でも、組織を前に進められる人を育てる」

ことである。



後継者には「判断する経験」が必要


リーダーになるために必要なのは、知識だけではない。

最も重要なのは、

自分で判断する経験

である。

上司がすべて決める。

部下はその指示に従う。

これでは、部下はリーダーになれない。

リーダーになった瞬間、

「どうしますか?」

と聞く相手がいなくなるからだ。

だから、将来リーダーになる人には、少しずつ判断を任せる必要がある。



小さな判断から任せる


いきなり大きな決断を任せる必要はない。

まずは小さな仕事からでいい。

「この案件なら、あなたならどう進める?」

と聞く。

次に、

「では、その方法でやってみて」

と任せる。

結果を確認する。

そして、

「なぜその判断をしたのか」

を聞く。

こうした経験を積み重ねることで、判断力が身についていく。



「正解を教える」だけではリーダーは育たない


部下から質問されたとき、

「正解はこれだ」

と教える。

仕事を覚えるという意味では必要なこともある。

しかし、リーダーを育てるなら、それだけでは足りない。

「なぜそう考えたのか」

「他にどんな選択肢があるか」

「もし条件が変わったらどうするか」

と問いかける。

リーダーに必要なのは、

正解を知っていることではなく、正解が分からない状況で判断する能力

だからだ。



歴史に学ぶ「次の世代」の重要性


歴史上の組織を見ると、ある人物が非常に優秀だったとしても、その人物一人ですべてが終わるわけではない。

重要なのは、その人物の周囲に、

「次に組織を支える人」

がいたかどうかである。

一人の指導者だけが突出している組織は、その人物がいなくなると弱くなる。

一方で、複数の人間が経験を積み、それぞれが判断できる組織は、リーダーが交代しても活動を続けられる。

つまり、

リーダーの能力だけではなく、リーダーを生み出す仕組み

が重要なのである。



児玉源太郎から考える「人を活かすリーダー」


これまでの記事で扱ってきた児玉源太郎について考えてみたい。

児玉のような人物が大きな仕事を成し遂げられた背景には、本人の能力だけではなく、周囲の人物との関係がある。

組織では、一人ですべてを判断することはできない。

情報を集める人。

現場を見る人。

専門知識を持つ人。

実際に部隊を動かす人。

それぞれの能力を組み合わせる必要がある。

ここから学べるのは、

リーダーとは「自分ですべてをやる人」ではなく、「人を動かして組織として成果を出す人」

だということだ。



山本五十六の言葉から考える「育てる」


山本五十六には、人を育てることについて広く知られている言葉がある。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」

この言葉が示しているのは、単純に「教える」だけではない。

まず自分がやってみせる。

説明する。

実際にやらせる。

そして評価する。

つまり、

手本 → 説明 → 実践 → 評価

という流れである。

人を育てるには、知識を与えるだけでは不十分だということが分かる。



ただし「やってみせる」だけでも足りない


ここで重要なのは、上司が何でもやって見せ続けないことだ。

上司が全部やる。

部下は見るだけ。

これでは、いつまで経っても部下は実践できない。

だから、

「見せる」から「やらせる」へ移るタイミング

が重要になる。

そして、

「やってみた結果、どうだった?」

と振り返る。

この繰り返しが、人を育てる。



後継者には「失敗する権利」も必要


リーダー候補を育てるなら、失敗を完全に防ぐことはできない。

むしろ、ある程度の失敗を経験させる必要がある。

もちろん、会社に致命的な損害を与えるような失敗を自由にさせる必要はない。

しかし、

「失敗したらすべて上司が責任を取る」

という環境では、本人の判断力が育ちにくい。

安全な範囲で任せる。

失敗したら振り返る。

次の判断に活かす。

これが重要だ。



「責任を与える」と「責任を押しつける」は違う


後継者を育てるときに注意したいのが、

「君に任せた。全部君の責任だ」

というやり方だ。

これは単なる責任の押しつけになる。

本当の意味で任せるなら、

権限と責任をセットで渡す

必要がある。

判断する権限を与える。

必要な情報を与える。

必要な支援をする。

そのうえで責任を持たせる。

これが「任せる」ということだ。



後継者を育てるなら「情報」も渡す


判断するためには情報が必要だ。

ところが、

「この仕事を任せる」

と言いながら、必要な情報を上司が握っていることがある。

これでは判断できない。

だから、

何を知っているのか。

どんな数字を見るのか。

どんな問題が起きているのか。

どんな制約があるのか。

こうした情報を共有する。

情報を渡すことも、後継者育成の一部なのである。



「なぜこの判断をしたのか」を伝える


優秀な上司は、結論だけを伝えない。

「今回はこうする」

だけではなく、

「なぜこう判断したのか」

を説明する。

例えば、

「売上だけを見るとA案だが、今回は将来の顧客関係を考えてB案にする」

という具合だ。

判断の背景を知れば、部下は次に似た状況に遭遇したとき、自分で考えられる。

これが、

判断基準を伝える

ということである。



マニュアルだけではリーダーは育たない


業務マニュアルは重要だ。

誰がやっても一定の品質を保てる。

新人教育にも使える。

しかし、マニュアルには限界がある。

現実の仕事では、

「マニュアルに書いていない問題」

が必ず起きるからだ。

そのとき必要なのが、

判断基準

である。

「こういう場合には何を優先するのか」

を理解していれば、未知の問題にも対応できる。

だから後継者を育てるときは、

「手順」

だけでなく、

「考え方」

を伝える必要がある。



後継者を育てるには「重要な仕事」を任せる


いつまでも、

「誰でもできる仕事」

だけを任せていては、リーダーは育たない。

重要な会議に参加させる。

顧客との交渉を経験させる。

プロジェクトを任せる。

部下を持たせる。

予算管理を経験させる。

失敗すれば影響が大きい仕事ほど、リーダーとしての経験になる。

もちろん、最初からすべて任せる必要はない。

責任の大きさを少しずつ増やしていく。

これが重要だ。



「次のリーダー」を早く決めすぎない


一方で、

「君が次の部長候補だ」

と早い段階で一人だけを決めてしまうのも危険だ。

組織にはさまざまな人材がいる。

現時点では目立たなくても、経験を積むことで大きく成長する人もいる。

だから、

複数の候補者に経験を与える

ことが重要になる。

競争させるという意味ではない。

それぞれの能力を見ながら、

「どの役割なら最も力を発揮できるか」

を考える。



「出世したい人」だけをリーダーにしなくていい


管理職になりたい人が、必ずしも優れた管理職になるとは限らない。

逆に、

「別に部長になりたいわけではない」

という人の中に、非常に優れたリーダーがいることもある。

人をまとめる。

困ったときに相談される。

冷静に判断する。

後輩を育てる。

こうした能力は、肩書きとは別のものだ。

だから、

「昇進意欲」だけで次のリーダーを選ばない

ことも重要である。



後継者を育てるには「人を見る力」が必要


リーダー自身に求められるのは、

自分が仕事をする能力だけではない。

「この人は何が得意なのか」

「何を経験させれば成長するのか」

「どんな仕事なら能力を発揮するのか」

を見る必要がある。

つまり、

人を見る力

が必要になる。

これは簡単ではない。

だからこそ、日頃から部下の仕事を観察することが重要だ。



「優秀な人を辞めさせない」ことともつながっている


前回の記事では、

「優秀な人が辞める会社には何があるのか」

について考えた。

そこでも、

「能力を活かせない環境」

が問題になると書いた。

後継者育成も同じだ。

能力のある人に仕事を任せる。

意見を聞く。

重要な仕事を経験させる。

成長の機会を与える。

そうすれば、

「この会社で、もっと仕事をしてみたい」

と思う人も増える。

つまり、

後継者育成は、人材流出を防ぐことにもつながる。



リーダーが「自分の後継者」を恐れてはいけない


ここには、意外に大きな心理的問題がある。

自分より優秀な部下が現れる。

すると、

「自分の立場がなくなる」

と考える人がいる。

その結果、重要な情報を渡さない。

仕事を任せない。

会議に参加させない。

成果を認めない。

これは組織にとって非常に危険だ。

優秀な部下がいるなら、

「自分の後継者が育っている」

と考えるべきだ。



「自分を超える人」を育てる


優れたリーダーは、

「自分と同じくらいの人」

を育てるだけではない。

できれば、

「自分より優れた部分を持つ人」

を育てたい。

自分にはない能力を持っている。

自分とは違う視点を持っている。

自分より新しい知識を持っている。

そういう人を組織の中に増やす。

それが長期的には組織を強くする。



「自分がいなくても大丈夫」は敗北ではない


リーダーにとって、

「あなたがいなくても、この部署は大丈夫です」

と言われることは、一見すると寂しいかもしれない。

しかし、それは本当は大きな成果だ。

自分が育てた人が仕事を任されている。

自分が伝えた考え方が受け継がれている。

自分がいなくても組織が動いている。

これは、

リーダーが残した最大の成果の一つ

ではないだろうか。



会社にとって本当に怖いのは「人が辞めること」だけではない


会社にとって怖いのは、優秀な人が一人辞めることだけではない。

もっと怖いのは、

「その人が辞めた後に、次の人がいないこと」

である。

一人が退職する。

↓

後任がいない。

↓

残った人に仕事が集中する。

↓

さらに人が疲弊する。

↓

また人が辞める。

この連鎖が起きる可能性がある。

だから、後継者育成は、

「いつか必要になる教育」

ではない。

組織を存続させるための経営課題

なのである。



後継者を育てる組織は「未来」を見ている


目の前の仕事だけを考えれば、

「自分がやったほうが早い」

となる。

しかし、未来まで考えれば、

「今日は部下にやらせたほうがいい」

となる。

この違いは大きい。

人を育てるには時間がかかる。

後継者を育てるには、さらに時間がかかる。

だからこそ、

問題が起きてから育てるのでは遅い。

今から育てておく。



まとめ――強い組織は「次の人」を育てている


優秀なリーダーがいることは、組織にとって大きな財産である。

しかし、

その人がいなくなったら何もできなくなる。

その人しか判断できない。

その人しか情報を持っていない。

その人しか人をまとめられない。

そんな組織は、実はそれほど強くない。

本当に強い組織は、

「次に任せられる人」を育てている。

仕事を任せる。

判断させる。

失敗させる。

振り返る。

重要な仕事を経験させる。

判断基準を伝える。

そして、少しずつ責任を大きくする。

そうやって、次のリーダーが育っていく。

リーダーの仕事は、

「自分が一番仕事のできる人になること」

ではない。

「自分がいなくなった後も、組織が前に進める状態を作ること」

なのかもしれない。

そして、そのためには、

自分より優秀な人を恐れないこと。

自分とは違う考え方を認めること。

仕事を任せること。

そして、

「自分を超える人を育てる」

ことが必要になる。

歴史を振り返れば、どんなに偉大な人物にも終わりがある。

どんな組織にも、リーダーの交代は訪れる。

だからこそ、

「今のリーダーがどれだけ優秀か」

だけを見るのではなく、

「次のリーダーが育っているか」

を見る必要がある。

組織の本当の強さは、

一人の英雄がいることではない。

英雄がいなくなった後にも、組織を動かせる人がいることだ。

人を育てる。

次の人に任せる。

そして、その人がさらに次の人を育てる。

この循環ができたとき、組織は一人の能力から解放される。

そこに、

「人が残る組織」ではなく、「人が育ち続ける組織」

の強さがあるのではないだろうか。




次に読んでほしい記事

▶なぜ部下は育たないのか?――人が育つ組織、育たない組織の違い





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