なぜ部下は育たないのか?――人が育つ組織、育たない組織の違い
「うちの若手はなかなか育たない」
「最近の社員は、自分から動かない」
「何度教えても同じことを聞いてくる」
会社では、こうした言葉を耳にすることがある。
上司からすれば、当然の不満かもしれない。
何度も説明している。
仕事も与えている。
失敗すれば注意している。
それなのに、なかなか一人前にならない。
しかし、ここで一度立ち止まって考えてみたい。
本当に「部下が育たない」ことだけが問題なのだろうか。
もしかすると、
「育つための仕事を与えていない」
「失敗する機会を与えていない」
「自分で考える前に答えを教えている」
「任せた後に口を出しすぎている」
という問題が、上司や組織の側にあるのかもしれない。
人は勝手に育つわけではない。
もちろん本人の努力は必要だ。
しかし、人が育つ環境を作ることも、組織の重要な仕事である。
今回は歴史から「人を育てる」ということについて考えてみたい。
「教えること」と「育てること」は違う
新人が入社すると、まず仕事を教える。
電話の取り方。
メールの書き方。
資料の作り方。
商品の知識。
社内のルール。
これらは重要だ。
しかし、仕事を教えただけでは「人が育った」とは言えない。
なぜなら、教えられた仕事しかできないからだ。
本当に必要なのは、
「自分で考えて判断できるようになること」
である。
「この場合はどうすればいいですか?」
と毎回上司に聞くのではなく、
「私はこう考えます。理由はこうです」
と言えるようになる。
そこまで成長して初めて、仕事を任せられるようになる。
いつまでも「答え」を教えてはいけない
部下から質問されたとき、上司がすぐ答える。
これは一見すると親切だ。
「それなら○○すればいい」
「この場合は△△だ」
「前にも教えただろう」
と答えてしまう。
しかし、これを繰り返していると、部下は学習する。
「分からなければ上司に聞けばいい」
という学習である。
すると、自分で考えなくなる。
上司がいないと仕事が進まない。
これは部下だけの問題ではない。
上司自身が、
「考える機会を奪っている」
可能性がある。
「どう思う?」から始めてみる
部下から、
「この場合、どうすればいいですか?」
と聞かれたとする。
そこで答えを教える代わりに、
「君はどう思う?」
と聞いてみる。
最初は、
「分かりません」
と返ってくるかもしれない。
それでも、
「今ある情報だけで考えると?」
「AとBならどちらがいい?」
「その理由は?」
と質問する。
すると、少しずつ考えるようになる。
これは時間がかかる。
忙しい上司にとっては面倒でもある。
しかし、
人を育てるとは、短期的な効率を犠牲にして、長期的な自立を作ること
でもある。
「自分でやったほうが早い」は教育の敵になる
前回の記事でも、
「優秀な人ほど仕事を抱え込む」
という問題を扱った。
ここでも同じ問題が出てくる。
部下に仕事を任せる。
↓
部下が時間をかける。
↓
ミスをする。
↓
上司が見ていられなくなる。
↓
「もう自分がやったほうが早い」
となる。
これは非常に自然な反応だ。
しかし、これを繰り返していると、部下はいつまでも仕事ができるようにならない。
なぜなら、
仕事を覚える機会そのものを失っているからだ。
最初から完璧な仕事を求めない
人を育てるうえで重要なのは、
「最初から完璧を求めない」
ことである。
初めて資料を作る人が、ベテランと同じ資料を作れるわけではない。
初めて顧客と交渉する人が、ベテラン営業と同じ対応ができるわけでもない。
当然である。
だから、
「なぜこんなこともできないんだ」
ではなく、
「前回より何ができるようになったか」
を見る。
小さな成長を積み重ねる。
それが人を育てる。
歴史上の人物も「育てられた」
歴史上の偉人を見ると、その人物だけが突然現れたように感じる。
しかし、実際には多くの人物が、
師匠から学び、
先輩から教えられ、
仲間と競い、
失敗しながら成長している。
優秀な人物であっても、最初から完成していたわけではない。
つまり、
「優秀な人材を採用すればいい」という考え方だけでは不十分
なのである。
組織には、
「普通の人を成長させる仕組み」
も必要だ。
児玉源太郎のような人材をどう生み出すか
これまでの記事で取り上げてきた児玉源太郎についても、最初から完成された人物だったわけではない。
さまざまな経験を積み、
人との関係を築き、
仕事を任され、
責任を負うことで能力を高めていった。
ここから学べるのは、
人材は「発見するもの」であると同時に「育てるもの」でもある
ということだ。
会社も同じである。
「優秀な人がいない」
と嘆く前に、
「今いる人に、成長する機会を与えているか」
を考えてみる必要がある。
「失敗させない上司」は、実は部下を育てにくい
上司が部下の失敗をすべて防いでしまう。
顧客とのやり取りに問題があれば、すぐ上司が対応する。
資料に間違いがあれば、上司が修正する。
判断を間違えそうなら、先回りして止める。
短期的には、仕事がうまく進む。
しかし、部下は経験できない。
失敗から学ぶこともできない。
もちろん、重大な事故につながる失敗を放置する必要はない。
しかし、
「安全に失敗できる範囲」
まで上司が取り上げてしまうと、人は育たない。
「失敗してもいい」と「何をしてもいい」は違う
ここは区別する必要がある。
部下に、
「好きにやっていい」
と言うだけでは教育にならない。
目的を示す。
守るべきルールを示す。
やってはいけないことを伝える。
そのうえで、
「この範囲なら自分で考えてやってみて」
と任せる。
そして、終わったら振り返る。
これが重要だ。
「任せる → 振り返る」の繰り返し
人を育てるうえで、非常にシンプルなサイクルがある。
任せる。
↓
やらせる。
↓
失敗する。
↓
振り返る。
↓
改善する。
↓
もう一度任せる。
この繰り返しだ。
一回教えただけで終わりではない。
経験させる。
振り返る。
また経験させる。
この繰り返しによって、判断力が身につく。
「怒る」だけでは人は育たない
失敗した部下に、
「何でこんなことをしたんだ!」
と怒る。
しかし、それだけでは次の行動につながらない。
重要なのは、
「なぜそう判断したのか」
を聞くことだ。
「そのとき、何を考えていた?」
「どんな情報を持っていた?」
「他に選択肢はあった?」
「次に同じ状況になったらどうする?」
こう聞けば、本人も自分の判断を振り返ることができる。
「失敗の原因」ではなく「判断の過程」を見る
前回の記事では、失敗が起きたときに、
「誰が悪いのか」
だけを考えてはいけないと書いた。
人材育成でも同じだ。
結果だけを見て、
「失敗した」
と評価するのではなく、
「その人はどのように判断したのか」
を見る。
結果は悪かった。
しかし、考え方には良い部分があったかもしれない。
逆に、結果は偶然うまくいっただけかもしれない。
だから、結果だけではなく、
判断のプロセス
を見る。
これが人を育てるうえで重要になる。
「失敗から学べる人」を育てる
人材育成の目的は、
「失敗しない人」を作ることではない。
むしろ、
「失敗したときに、自分で修正できる人」
を作ることだ。
どんな仕事でも、想定外の問題は起きる。
上司がすべての問題に答えを出すことはできない。
だから、
「問題が起きたら上司に聞く」
人ではなく、
「問題が起きたら、まず自分で考えてから相談する」
人を育てる。
この違いは大きい。
部下を育てるには「仕事」を与える
研修だけでは人は育たない。
本を読む。
講義を受ける。
研修に参加する。
もちろん、それも必要だ。
しかし、それだけでは実践力は身につきにくい。
実際の仕事を任せる。
顧客と話す。
資料を作る。
会議で発表する。
後輩を指導する。
こうした経験を積むことで、人は成長する。
だから、
「教育=研修」
と考えないことが重要だ。
仕事そのものを教育の場にする。
少し難しい仕事を与える
人は、簡単すぎる仕事だけでは成長しにくい。
一方で、難しすぎる仕事を突然任せても潰れてしまう。
重要なのは、
「少し難しい仕事」
を与えることだ。
今の能力で何とかできる。
しかし、少し考えないとできない。
少し勉強しないとできない。
誰かに相談する必要がある。
この程度の仕事を少しずつ増やしていく。
「期待されている」と感じることも重要
人は、
「あなたには、この仕事を任せられる」
と言われると、責任を感じる。
そして、その期待に応えようとする。
もちろん、プレッシャーをかけすぎてはいけない。
しかし、
「どうせ君には無理」
と言われ続ければ、挑戦する気持ちは失われる。
だから、
期待と支援をセットにする
ことが重要だ。
「この仕事を任せたい」
だけではなく、
「分からないことがあれば相談してほしい」
と伝える。
部下を育てる人は「待つこと」ができる
人材育成では、
待つこと
が必要になる。
部下が考えている。
答えが出ない。
上司からすると、すぐ教えたくなる。
しかし、そこで少し待つ。
「もう少し考えてみて」
と時間を与える。
もちろん、緊急の場合は別だ。
しかし、すべての場面で答えを教えてしまうと、本人が考える機会がなくなる。
「育てる」とは、上司の仕事を減らすことでもある
人を育てる目的は、単に「良い部下を作る」ことではない。
上司自身の仕事を減らすことにもつながる。
最初は、
「これどうすればいいですか?」
と聞いてくる。
しかし、成長すると、
「この方法で進めようと思います」
と相談してくる。
さらに成長すると、
「この件はこう処理しておきました」
と報告だけになる。
そして最終的には、
「この分野は任せてください」
となる。
ここまで来れば、上司は別の仕事に集中できる。
部下が育たない会社では、上司も忙しい
皮肉なことに、
人が育たない会社ほど、管理職が忙しい
ことがある。
なぜなら、上司がいつまでも現場の仕事を抱えているからだ。
部下に任せる。
↓
失敗する。
↓
上司が修正する。
↓
また上司が仕事をする。
↓
部下には簡単な仕事しか任せない。
↓
部下が育たない。
↓
さらに上司が仕事を抱える。
この悪循環になる。
だから、人を育てることは「部下のため」だけではない。
上司自身が楽になるためにも必要な仕事なのだ。
「育った人」が次の人を育てる
人材育成で最も強い状態は、
上司一人が部下全員を育てる状態ではない。
部下が成長する。
↓
その部下が後輩を育てる。
↓
後輩がさらに次の人を育てる。
こうなれば、組織全体に教育の文化が生まれる。
つまり、
人を育てる仕組みそのものが組織に残る。
歴史から学ぶ「後継者を育てる」ということ
歴史上の組織が強かったかどうかを見るとき、
「その人物が優秀だったか」
だけではなく、
「その人物の後に誰が続いたのか」
を見ることが重要だ。
一人の英雄がいる。
その人物がいる間は強い。
しかし、その人物がいなくなった途端に組織が弱くなる。
これは、
人ではなく、個人の能力に依存した組織
だったということだ。
本当に強い組織は、次の世代を育てる。
「自分がいなくても回る組織」を作る
これは管理職にとって重要な視点だ。
自分が休んでも仕事が回る。
自分が異動しても部署が回る。
自分が退職しても組織が残る。
これを、
「自分がいなくてもいい」
と考える必要はない。
むしろ、
「自分がいなくても回る組織を作れる」
ことこそ、優れた管理職の仕事だ。
自分だけが分かっている情報を減らす。
仕事を任せる。
判断基準を伝える。
部下を育てる。
こうすることで、組織は強くなる。
優秀な上司とは「自分が一番仕事のできる人」ではない
管理職になると、
「自分が一番仕事ができなければならない」
と思ってしまう人がいる。
しかし、組織のリーダーに必要なのは、それだけではない。
自分より営業が得意な人を活かす。
自分より分析が得意な人を活かす。
自分より文章が得意な人を活かす。
自分より人を育てるのが得意な人を活かす。
つまり、
自分より優秀な人間を組織の中で活躍させる能力
が重要になる。
人材育成は「投資」である
人を育てるには時間がかかる。
最初は教える時間が必要になる。
失敗もする。
上司がフォローする必要もある。
短期的には非効率に見える。
しかし、数年後には違ってくる。
仕事を任せられる人が増える。
上司の負担が減る。
組織としてできることが増える。
新しい仕事にも挑戦できる。
だから、人材育成は、
短期的なコストではなく、長期的な投資
と考えるべきだ。
まとめ――人が育たないのは「本人の能力」だけではない
「最近の若手は育たない」
という言葉は簡単だ。
しかし、本当に考えるべきなのは、
「その人が育つ環境を作っているか」
ということなのかもしれない。
答えをすぐ教えていないか。
仕事を任せているか。
失敗する機会を奪っていないか。
失敗したときに怒るだけになっていないか。
少し難しい仕事を与えているか。
成果を評価しているか。
判断の理由を説明しているか。
そして、
自分がいなくても仕事が回るように、人を育てているか。
人は一度教えただけでは育たない。
任せる。
失敗する。
振り返る。
改善する。
また任せる。
その繰り返しによって、少しずつ自分で考えて行動できるようになる。
そして、育った人が次の人を育てる。
これが組織としての人材育成である。
歴史を振り返っても、強い組織は一人の英雄だけで成り立っているわけではない。
その人物を支える人がいる。
その人物から学ぶ人がいる。
次の世代を担う人がいる。
だからこそ、組織が続いていく。
会社も同じだ。
優秀な人を採用することは重要だ。
しかし、それ以上に重要なのは、
「今いる人を、どう成長させるか」
なのかもしれない。
部下が育たないとき、
「本人に能力がない」
と結論づける前に、
一度、自分たちの組織を振り返ってみたい。
その人に、考える機会を与えているだろうか。
任せる機会を与えているだろうか。
失敗から学ぶ機会を与えているだろうか。
そして、成長した先にどんな仕事を任せるのかを示しているだろうか。
人を育てるとは、誰かを自分の思い通りに変えることではない。
その人が自分の力で成長できる環境を作ることだ。
そして、人を育てられる組織は、人が辞めても終わらない。
次の人が育っているからだ。
そこに、
「人を活かす組織」の本当の強さ
があるのではないだろうか。
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