【連載 第7回(最終回)】行動経済学から学ぶ「貯金できる習慣」― 意志の力ではなく“仕組み”で貯める





はじめに:なぜ貯金は難しいのか?

「今年こそは貯金しよう!」と決意しても、気づけば財布も口座も空っぽ……。
多くの人が経験するこの悩み、実は「意志が弱いから」ではなく、人間の脳の仕組みが関係しています。


行動経済学の知見を取り入れると、私たちがなぜ貯金できないのか、どうすれば習慣化できるのかが見えてきます。




1. 先延ばしの心理

人は「現在の楽しみ」を優先しがちです。
これを行動経済学では 現在バイアス(Present Bias) と呼びます。


  • 「今の1,000円の楽しみ」と「将来の1,500円の楽しみ」を比べたら、つい“今”を選んでしまう

  • 長期的なメリットより短期的な満足に流されやすい


そのため、貯金を“我慢”と捉えると続きません。




2. メンタル・アカウンティング(心の会計)

同じ1万円でも「臨時収入」と「給料」では使い方が変わる、というのがメンタル・アカウンティングです。


  • ボーナスは「ご褒美」扱いで使い切ってしまう

  • 生活費は「固定費」と思い込み、見直さない


この“心の財布”のクセを理解することが、貯金の第一歩です。




3. 「自動化」で意思決定を減らす

貯金を成功させる最大のポイントは、仕組み化して意思の力に頼らないこと


実践例

  • 先取り貯金:給料が入ったら自動で一定額を別口座へ

  • 定期積立投資:毎月決まった日に自動で引き落とし

  • 貯金専用口座:普段使いの口座と分けて“触れないお金”にする


こうした自動化は「ナッジ(nudge:そっと後押しする仕組み)」の一種で、意志力を消耗せずに行動を定着させます。




4. 行動トリガーで習慣化する

心理学では「環境が行動をつくる」といわれます。


  • 財布に現金を多く入れない

  • キャッシュレス決済の履歴を毎週チェックする習慣

  • “貯金アプリ”で可視化し、小さな達成感を積み重ねる


このように 環境や仕組みをデザインすること が、長期的に貯金を続けるカギになります。




5. ご褒美を組み合わせる

貯金=我慢、だけでは続きません。
行動経済学では「即時的な報酬」を組み合わせると習慣化しやすいとされています。


  • 毎月の貯金が達成できたら、好きなスイーツを買う

  • 1年で○○万円貯められたら旅行に行く


「節約した先に楽しみが待っている」と思えるだけで、モチベーションが持続します。




まとめ

  • 貯金できないのは意志の弱さではなく「人間の心理のクセ」

  • 現在バイアス・メンタルアカウンティングが大きな壁になる

  • 意志に頼らず「自動化」「環境デザイン」「ご褒美」で仕組み化する

  • 小さな成功体験を積み重ねることで、習慣として定着する




連載を終えて

この連載では「行動経済学で読み解く日常とお金」をテーマに、私たちの身近なお金の行動を科学的に見てきました。


お金は単なる数字ではなく、人間の心理や行動と切り離せないもの。
そのことを知るだけで、日々のお金との付き合い方はずっとラクになります。




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連載一覧はこちら。

【連載 第1回】なぜ私たちはお金の判断を間違えるのか?― 行動経済学で読み解く日常の心理

【連載 第2回】なぜ人はセールで買いすぎるのか? ― 行動経済学が解き明かす“お得感”の罠

【連載 第3回】なぜ人は「貯金できない」のか?  ― 行動経済学が教える“先延ばしの心理”と習慣化のコツ

【連載 第4回】投資とギャンブルの心理  ― 行動経済学が教える“リスクの錯覚”と賢い向き合い方

・【連載 第5回】お金と幸福度  ― いくら稼げば幸せになれるのか?

・【連載 第6回】貧困と意思決定  ― なぜお金がないと判断を誤りやすいのか?




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