はじめに:わかっているのに貯金できない
「今月こそ貯金しようと思ったのに、気づいたら残っていない」
「貯金用口座を作ったのに、結局おろして使ってしまった」
こうした悩みは、多くの人が抱えています。
総務省の家計調査によると、日本の20~40代のうち、「貯金ゼロ世帯」は約2~3割も存在するというデータがあります。
では、なぜ“必要だとわかっているのに”貯金ができないのでしょうか?
そこには、行動経済学で解き明かされた 「心理のバイアス」 が深く関わっています。
貯金を阻む3つの心理的な壁
1. 現在バイアス ― 「今の楽しみ」を優先してしまう
人は、将来の利益よりも「今すぐの快楽」を重視する傾向があります。
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「老後のために1万円貯めるより、今日の飲み会に1万円使うほうが楽しい」
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「将来のために節約するより、今この瞬間にご褒美を買いたい」
この“現在バイアス”がある限り、貯金は後回しになりやすいのです。
2. メンタルアカウンティング ― お金を「用途別」に考えてしまう
人はお金を“ひとつの全体”ではなく、「ボーナスだから使っていい」「給料だから生活費」といった用途ごとに分けて考える傾向があります。
その結果、臨時収入やキャッシュバックは「余分なお金」と錯覚して散財し、貯金に回すチャンスを逃してしまいます。
3. 計画錯誤 ― 自分を過信してしまう
「来月からは節約できるはず」「ボーナスが入れば一気に貯金できる」
そう思っても、実際には想定外の出費が必ず出てきます。
これは“計画錯誤”と呼ばれ、人は将来の支出や誘惑を甘く見積もってしまうため、結果的に貯金が進まないのです。
貯金を習慣化するための仕組みづくり
貯金できないのは「性格」や「意志の弱さ」ではなく、脳の仕組みによるものです。
だからこそ、“心理のクセを逆手にとる仕組み”を作れば、誰でも貯金できるようになります。
1. 先取り貯金(自動化の力を借りる)
給料が入ったら「余った分を貯金する」のではなく、最初に一定額を自動で貯金口座に移す方法です。
人間は「なかったもの」と思いやすいため、残りのお金で自然と生活をやりくりするようになります。
2. 目標を“具体化”する
「将来のために貯金する」という抽象的な目的では長続きしません。
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「3年後の旅行資金30万円」
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「老後資金2,000万円」
といった具合に、金額と期限を具体的に設定することで、脳が「ゴールに近づいている」と感じやすくなります。
3. 小さな成功体験を積み上げる
いきなり「毎月10万円貯金」はハードルが高く、失敗すると挫折します。
まずは「毎日500円」「毎月1万円」など、小さな金額から始め、成功体験を積み上げることが重要です。
人間は「続いている感覚」に快感を覚えるため、貯金が習慣化しやすくなります。
4. ご褒美ルールを設定する
単なる我慢ではストレスが溜まり、リバウンド的に散財してしまいます。
「目標額の半分まで貯まったら小さなご褒美を買う」など、楽しみを組み込むことで持続性が高まります。
貯金の成功者がやっている共通点
行動経済学の知見を活かしている人は、次のような習慣を持っています。
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給料日に自動で積み立てられる仕組みを設定している
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貯金額を「見える化」してモチベーションを維持している
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「我慢」ではなく「習慣」によって自然にお金が貯まる環境を作っている
「強い意志」ではなく「環境と仕組み」が、貯金成功のカギなのです。
まとめ
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貯金できないのは「心理のバイアス」が原因
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現在バイアス(今を優先する)
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メンタルアカウンティング(用途でお金を分ける)
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計画錯誤(将来を甘く見積もる)
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対策は「仕組みづくり」
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先取り貯金・目標の具体化・小さな成功体験・ご褒美ルール
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次回予告:「投資とギャンブルの心理」
第4回では「なぜ人は投資とギャンブルを混同してしまうのか?」をテーマに取り上げます。
行動経済学が明らかにした“リスクの錯覚”と、投資を冷静に続けるための心理戦略を解説します。
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連載一覧はこちら。
・【連載 第1回】なぜ私たちはお金の判断を間違えるのか?― 行動経済学で読み解く日常の心理
・【連載 第2回】なぜ人はセールで買いすぎるのか? ― 行動経済学が解き明かす“お得感”の罠
・【連載 第4回】投資とギャンブルの心理 ― 行動経済学が教える“リスクの錯覚”と賢い向き合い方
・【連載 第5回】お金と幸福度 ― いくら稼げば幸せになれるのか?
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