【連載 第2回】なぜ人はセールで買いすぎるのか? ― 行動経済学が解き明かす“お得感”の罠






はじめに:セール後の「買わなきゃよかった」経験

夏のクリアランスセール、年末のブラックフライデー、ネットショップのタイムセール…。

「安いから買ったのに、結局使わなかった」
「お得に買えたはずなのに、クレジットカードの請求額を見て後悔」

こんな経験、ありませんか?

セールは本来「必要なものを安く買える」チャンスのはず。
でも現実は、多くの人が 必要のないものまで買ってしまう心理の罠 にハマっています。




行動経済学で解き明かす“セールの魔力”

なぜ人はセールに弱いのでしょうか?
行動経済学では、いくつかの心理効果が関わっていることが分かっています。



1. アンカリング効果

「定価〇〇円 → 今だけ△△円!」という表示は、典型的なアンカリング効果です。
最初に高い数字を見せられると、それが基準になり、その後の値段が「安い」と感じやすくなります。


例:定価50,000円のコート → セール価格20,000円

  → 本当は20,000円でも高いのに、「30,000円得した!」と錯覚してしまう。



2. 希少性の原理(数量限定・タイムセール)

「残り5点」「本日限り」などの表示は、心理的に強力なプレッシャーを与えます。
人は「失う恐怖(損失回避)」を避けたいという本能があるため、冷静に考える前に「今買わなきゃ」と行動してしまうのです。



3. サンクコスト効果(元を取ろうとする心理)

「せっかく安くなっているのに、買わなかったら損かも」と思ってしまう心理です。
実際には「買わない」ことが一番お得なケースも多いのに、「損したくない」という気持ちに押されて、必要のないものをカゴに入れてしまいます。




4. 現在バイアス

「今得できる」という喜びを、将来の出費よりも優先してしまう心理です。
将来のカード請求や収納スペースの問題よりも、「今この瞬間の満足感」が勝ってしまうのです。



セールで後悔しないための対策

心理のクセを知ったうえで、セールに賢く向き合うにはどうすればよいでしょうか。


① 「買う理由」を“定価基準”ではなく“必要性”で考える

  • ❌ 「安いから買う」

  • ✅ 「買う予定だったものが安くなっているから買う」


あらかじめ買うものをリスト化してからセールに臨むと、無駄遣いを防げます。




② 24時間ルールを導入する

「欲しい!」と思ったら、すぐに買わずに24時間待ってみる。
時間が経っても欲しいと思えるなら、それは必要な買い物です。




③ 支払いは“未来の自分”を意識する

クレジットカードや後払いは、将来の自分に負担を先送りしています。
「この買い物で、来月の自分が喜ぶか?」と問いかけてみると冷静になれます。




セールの「得」と「損」を見極める

セールは本来、賢く使えばとても便利な仕組みです。


  • 予定していた生活必需品を安く買う

  • 長期的に使うものをコストダウンする


こうした利用なら“本当にお得”になります。

しかし、「お得だから買う」という逆転した思考に陥ると、結局は支出が増えてしまいます。




まとめ

  • セールに弱いのは意志の弱さではなく、心理のバイアスが原因

  • アンカリング効果、希少性の原理、サンクコスト効果、現在バイアスが複合的に働く

  • 「買う予定があったか?」「未来の自分は喜ぶか?」を基準にするのが有効



次回予告:なぜ人は「貯金できない」のか?

連載第3回は「貯金の心理学」。
「わかっているのに貯金できない」人が多いのはなぜか?
行動経済学が示す“先延ばしの心理”と、貯金を習慣化する仕組みを解説します。





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連載一覧はこちら。

【連載 第1回】なぜ私たちはお金の判断を間違えるのか?― 行動経済学で読み解く日常の心理

【連載 第3回】なぜ人は「貯金できない」のか?  ― 行動経済学が教える“先延ばしの心理”と習慣化のコツ

【連載 第4回】投資とギャンブルの心理  ― 行動経済学が教える“リスクの錯覚”と賢い向き合い方

・【連載 第5回】お金と幸福度  ― いくら稼げば幸せになれるのか?





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