【連載 第1回】なぜ私たちはお金の判断を間違えるのか?― 行動経済学で読み解く日常の心理
はじめに:お金の悩みは「意志の弱さ」ではない
「セールでお得だから買ったけど、結局使っていない」
「気づいたら財布が空っぽになっていた」
「投資で利益が出ていたのに、怖くなって売ってしまった」
こんな経験、誰にでもあるのではないでしょうか。
多くの人は「自分の意志が弱いから」「計画性がないから」と自分を責めてしまいます。
でも実は、それは“あなたのせい”ではありません。
人間の脳は、そもそも合理的なお金の判断をするようにはできていないのです。
この「人間は非合理である」という前提に立って研究されているのが 行動経済学 です。
本連載では、行動経済学や神経経済学の知見をもとに、日常生活の中で「なぜお金の判断を間違えるのか」を分かりやすく解説していきます。
経済学が信じた「合理的な人間」は幻想だった
従来の経済学は、人間を 合理的経済人(ホモ・エコノミクス) と仮定していました。
つまり「人は常に計算をして、最も得になる行動をとる」という前提です。
しかし現実には、そうはいきません。
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ダイエット中なのにケーキを買ってしまう
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将来のために貯金しようと思いつつ、欲しいものを衝動買いする
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株価が下がっているのに「まだ戻るはず」と売らずに持ち続ける
冷静に考えれば不合理に見える行動ですが、実はこれは私たちの脳の「心理バイアス」から生まれる自然な反応なのです。
日常に潜む「心理の落とし穴」
ここからは、代表的な心理バイアスを3つ紹介します。
1. 損失回避の法則
人間は「得する喜び」よりも「損する痛み」を強く感じる傾向があります。
心理学者の研究によれば、1万円を失う痛みは、1万円を得た喜びの2倍ほど強いといわれています。
そのため株価が下がっても、「損を確定させたくない」と思って売らず、結果的にさらに大きな損を抱えることがあります。
2. 現在バイアス
「将来の利益よりも、今すぐの快楽を優先する」心理です。
頭では「老後のために貯金しなきゃ」と分かっていても、実際には「今日の外食のほうが楽しそう」と思ってしまうのは、このバイアスのせいです。
貯金や長期投資が苦手な人の多くは、この「現在バイアス」に影響されています。
3. アンカリング効果
人は最初に提示された数字や情報を基準に判断してしまいます。
例えば「定価5万円の商品がセールで2万円」と言われると、“2万円払っても得した気分” になります。
でも本当は、その商品が本当に必要かどうかとは関係がありません。
「クセ」を知ることが改善の第一歩
ここまで聞くと「やっぱり自分はダメだ」と思うかもしれません。
でも安心してください。
行動経済学が教えてくれるのは、私たちの脳がそもそもそういう仕組みになっているという事実です。
つまり「自分だけが意思が弱いわけではない」のです。
そして、自分のクセを知ることで、少しずつ改善することができます。
生活に活かせるヒント
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セール品は「定価」ではなく「本当に必要か」で考える
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貯金は「意志」ではなく「自動化」に頼る(先取り貯金や自動積立)
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投資は「短期の損益」ではなく「長期の目的」に目を向ける
こうした仕組みを取り入れることで、心理のクセに振り回されずにお金を管理できるようになります。
まとめ
人間は合理的にお金の判断をするようにはできていない
損失回避・現在バイアス・アンカリング効果など、心理のクセが行動を左右する
自分のバイアスを知ることが、お金とうまく付き合う第一歩
次回予告:「なぜ人はセールで買いすぎるのか?」
次回は、日常で最も身近なテーマ「セールでつい買ってしまう心理」を掘り下げます。
“お得感の罠”の正体を知れば、無駄遣いを減らすヒントが見えてきます。
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連載一覧はこちら。
・【連載 第1回】なぜ私たちはお金の判断を間違えるのか?― 行動経済学で読み解く日常の心理
・【連載 第2回】なぜ人はセールで買いすぎるのか? ― 行動経済学が解き明かす“お得感”の罠
・【連載 第3回】なぜ人は「貯金できない」のか? ― 行動経済学が教える“先延ばしの心理”と習慣化のコツ
・【連載 第4回】投資とギャンブルの心理 ― 行動経済学が教える“リスクの錯覚”と賢い向き合い方
・【連載 第5回】お金と幸福度 ― いくら稼げば幸せになれるのか?
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