日本の米価は「高い」のではない──デフレ前の水準に戻っただけ 農業再生に必要なのは「農家戸別所得補償」か「価格保証政策」だ
■ 「米が高い」という誤解
最近、SNSやニュースのコメント欄で「米が高くなった」「庶民の食卓を直撃している」といった声をよく見かけます。
しかし実際のところ、現在の米価は決して“異常に高い”わけではありません。
むしろ、長く続いたデフレによって不自然に低く抑えられていた価格が、ようやく本来の水準に戻ったと見るべきなのです。
農林水産省の統計によれば、2024年産の主食用米の価格は60kgあたり13,000〜15,000円前後。
これは、1990年代の水準とほぼ同程度です。つまり、名目価格では「高い」と感じても、物価全体の上昇や円安を考慮すれば、実質的にはむしろ安い部類なのです。
■ デフレ時代の“安すぎた米価”がもたらした弊害
デフレ期の日本では、消費者の購買力が伸びず、農産物価格も下落を続けました。
その結果、農家の経営は苦しくなり、後継者不足・耕作放棄地の増加・集約化の遅れなど、構造的な問題が深刻化しました。
つまり、「安い米」は消費者にとって一時的にはありがたくても、長期的には農業そのものを衰退させる要因となっていたのです。
■ 農業再生のカギは「価格とコストの差」を埋めること
農家の努力だけで価格競争に勝つことは、もはや不可能です。
海外の大規模農業や補助金政策に対抗するには、日本政府が市場と生産コストのギャップを埋める仕組みを整える必要があります。
その代表的な政策が以下の二つです。
① 農家戸別所得補償制度
民主党政権時代に導入された制度で、販売価格と生産コストの差額を農家に直接補填する仕組みでした。
「バラマキ」と批判されがちでしたが、実際には中小農家の経営安定を支え、離農防止に一定の効果を上げたと評価されています。
② 価格保証・所得補償制度(複合モデル)
欧米では一般的な制度で、市場価格が一定水準を下回った場合に国が差額を補てんします。
これにより、農家は安定的な経営が可能となり、国民も安定した価格で食料を確保できます。
つまり、「自由市場に任せればよい」という発想では、食料安全保障も地域経済も守れないという現実があるのです。
■ 米価を「適正化」することは国益である
食料は単なる商品ではなく、国家の安全保障インフラです。
日本の農業を守るということは、輸入依存に偏らない食料供給体制を維持することに直結します。
そのために必要なのは、
「米をもっと安くせよ」という短期的な発想ではなく、
「農業が持続可能になるように公的支援を整える」長期的ビジョンです。
■ 結論:米価の“正常化”を誤解してはならない
米価上昇は“異常”ではなく、デフレ脱却の自然な過程です。
むしろ今こそ、日本の農業を根本から立て直すチャンスです。
農家戸別所得補償制度や価格保証政策の再構築によって、
「安定した農業経営」「持続的な食料供給」「地方の再生」が実現できるでしょう。
✅ まとめ
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米価はデフレ前の水準に戻っただけであり、実質的には安い。
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安すぎる価格は農業を衰退させ、国の食料安全保障を脅かす。
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農家戸別所得補償または価格保証制度の導入が、農業再生のカギ。
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米価の「正常化」をチャンスと捉え、持続可能な農政へ舵を切るべき。
日本の食を守るのは、価格を下げることではなく、価値を支えること。
米価をめぐる議論は、まさに日本の未来のあり方そのものを映しているのです。
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