MMTは経済を視る新たなレンズ~貨幣とは、借金そのものである~




京都大学大学院准教授の柴山桂太氏が、


MMT(現代貨幣理論)について分かりやすい論考を投稿されています。



【柴山桂太】MMTという新たな「レンズ」
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20190901/

表現者クライテリオンの最新号は、MMT(現代貨幣理論)の特集で、私も一文を寄せています。
https://the-criterion.jp/backnumber/86_201909/

MMTは、本格的な紹介が始まる前から、激しい非難にさらされています。財政赤字はまだまだ増やせる? 将来の金利上昇やインフレ・リスクをどう考えているのだ。インフレが始まったら増税で対処する? そんなことが政治的に可能だと思っているのか…。他にも上げていけばキリがないほどです。

しかし、それらの批判は本当に的を射ているのか。この八月、MMTの理論的支柱の一人、ランダル・レイによる入門書が翻訳・出版されました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4492654887/

こちらを読めば、「悪評高い」MMTが実際に何を主張しているのか、MMTへのよくある批判がどこまで当たっているのかを、自分の目で確かめることができるはずです。

MMTの大まかな内容解説や、若干の疑問点についてはクライテリオンの原稿に記しましたので、ここで繰り返しません。

一点だけ確認しておけば、MMTは財政赤字を無際限に拡張していい、という理論ではありません。主権通貨を発行する政府に財政制約がない(「キーストローク」で支出を増やすことができる)ということを「事実」として指摘してはいますが、いくらでも支出「すべき」とは言っていません。そこは注意深く分けられています。

無際限に支出を増やしていけば、インフレが発生するのは当然のこと。インフレが発生した場合、政府支出を裁量的に減らすことの難しさについても十分、自覚的です。

景気回復が進めば政府支出が自動的に減るための制度として提唱されているのが、「就労保証プログラム」です。これは、働く意欲のある者なら誰でも職につけるよう政府が約束するプログラムで、基準賃金は統一されています。このプログラムが実施されれば、賃金価格の「土台」が提供されるだけでなく、好景気時には(民間部門に雇用が移るので)政府支出が自動的に減ることも期待できる。

もちろん、具体的な制度設計となると難しい面をかなり含んでいますが、MMTが闇雲に政府支出の拡大を訴えているわけではない、という証左にはなります。

もう一つ、レイの入門書をあらためて読んで思ったのは、H・ミンスキーの影響の大きさです。これは当たり前で、ミンスキーはレイの大学院の指導教官にあたるとのこと。

ミンスキーは、民間投資が経済成長の原動力であることを認めつつも、投資ブームが信用膨張を生み、それが弾けることで金融システムが不安定化してしまう資本主義の現実を理論化した人物です。

資本主義は文字通り「資本」の主義ですから、設備投資が不可欠です。機械が労働に置き換わり、経済全体の生産性も上がっていく。資本分配率は上昇する反面、労働者は不利な状況へと追い込まれていきます。

その上、投資偏重の経済は、信用を供給する金融システムのイノベーションと結びついて、バブルとその崩壊という不安定な状況を作り出してしまう。そしてバブルが弾けるたびに、労働者は失業を余儀なくされる…。ミンスキーのこうした問題意識は、レイの入門書でも至る所で顔を出しています。

「我々の経済は、(一時的に経済成長率を引き上げるものの、結局は金融危機や景気後退によって破裂してしまう)バブルによって繰り返し停滞状態にある。労働者にとっては、その後遺症が失業である。さらに言えば、バブルによって加熱された「景気回復」でさえ、ほんのわずかな雇用しか生み出さない。」(邦訳、506頁.)

実際、景気が回復したといっても失業率は緩やかにしか低下せず、雇用が回復したといっても大半は低賃金部門で、労働者の生活は良くならない。ようやく労働市場が改善し始めたと思ったら次の景気後退や金融危機がやってきて、すべてがやり直しとなる。現代の資本主義は、そういうサイクルを繰り返しているという指摘は、まったくその通りでしょう。

近年、金融危機後の「長期停滞」を指摘する声が相次いでいます。そして政府による投資拡大が主張されたりもするのですが、レイはこうした論者(例えばL・サマーズ)に対して批判的です。

政府支出は、民間投資の「呼び水」政策として実施されるべきではない。あくまで、労働者の雇用や賃金状況の改善のために支出が行われるべきだ、と言うのです。

もちろん、「就労保障プログラム」の実現可能性には難がある、と批判するのは簡単です。また政府が直接、雇用を行うことは労働市場の働きを歪めてしまうのではないか、という批判ももっともだと思います。

しかしレイに言わせれば、MMTの目的は特定の政策を押しつけるというより、新たな「レンズ」を通じて経済を見ることで、政策論の枠を広げることにある。従来であれば見向きもされなかったアイデアが現実の「代替案」として検討されるようになれば、理論の役割としてはそれで十分なのです。

その意味で、MMTは即効性のある政策を引き出すための道具というより、これまでの「レンズ」では見えていなかった、貨幣や財政の機能に焦点を合わせるための道具、と言った方が正確だと思います。

もちろん、新しい「レンズ」には固有の盲点もあることでしょう。それが何なのかということも含めて、議論がこれから深まっていくことに期待したいところです。



…。


柴山氏は、MMTについて少し解説を加えた上で、


MMTとは、経済を視るための「レンズ」である、と書いています。


すなわち、何らかの政策を指し示すものというよりは、


貨幣の現実を提示した上で、


政策を議論するための枠の幅を広げてくれるものだということです。


MMTへの批判には、「財政赤字を無制限に認めるトンデモ理論だ!」


といった、見当違いのモノも多くあります。


多くの人は、そうしたレッテルに流されてしまうでしょう。


しかし、柴山氏の言うように、


MMTは政策、特に経済政策について、


新たな枠組みを考えるための視点を与えてくれるものだ、


と考えることが出来れば、


あまり、先入観なくMMTに触れることができるのではないでしょうか?


緊縮財政が続き、20年以上も経済成長ができていない日本にとって、


MMTは救世主です。


興味を持たれた方は、ぜひ以下の動画など学んでみて下さい。



「日本の未来を考える勉強会」ーよくわかるMMT(現代貨幣理論)解説ー平成31年4月22日 講師:評論家 中野 剛志氏
https://www.youtube.com/watch?v=LJWGAp144ak



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