陰謀論が放つ不思議な魅力~思考を止めるきっかけになっていませんか?~




隔月刊誌「表現者クライテリオン」の編集委員を務める川端祐一郎氏が、興味深い記事を寄稿されていたので、ご紹介!



【陰謀論に取り憑かれる人々】
https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20191113/

2016年に行われたイギリスの「ブレグジット」に関する国民投票や、トランプ氏が当選したアメリカ大統領選挙において、SNSなどオンラインでの宣伝合戦が大きな役割を果たしたのではないかという議論があります。

特に有名なのは、「ケンブリッジ・アナリティカ」というイギリスのコンサル会社が、フェイスブックなどから取得した数千万人分にものぼる個人データを用いて分析モデルを構築し、これがブレグジット推進派やトランプ陣営の選挙作戦に投入されたという話です。米大統領戦では、トランプ陣営が同社の分析に基づいてターゲットを定め、ヒラリー陣営の100倍の費用をかけてフェイスブック広告を展開したらしい。

このケンブリッジ・アナリティカ社については、

「フェイスブックなどの個人データを違法に利用したのではないか」
「ヒラリー・クリントンを中傷する虚偽広告の流布に関わったのではないか」
「ロシア当局による選挙への介入をサポートしたのではないか」

といったいくつもの疑惑が指摘されていて、同社は法的・倫理的な責任が問われる中、2018年に破産しました。

最近、ケンブリッジ・アナリティカ社で選挙戦に携わった後、不正行為の内部告発を行った元幹部やエンジニアらに密着した『The Great Hack』というドキュメンタリー映画を見ました。当事者本人たちがインタビューに答えているので、どんな経緯や戦略で選挙戦に臨んだのかがよく分かって興味深いですし、恐らく同社が法的・倫理的に問題のある行為を行っていたのは本当なのでしょう。「ビッグデータ」「洗練された解析技術」「虚偽情報」の組み合わせによる世論操作が、民主主義を危機に陥れるという問題提起も重要だと思います。

ただ、この映画を観ていて違和感も覚えました。オンラインでの宣伝合戦の裏には「ダーク・ワールド」(闇の世界)が広がっていると言ったり、フェイスブックのような巨大企業を「デジタル・ギャングスター」(デジタルやくざ)と呼んだりしていて、これらが民主主義に対する深刻な驚異になっていると主張するのですが、冷静に考えるとオンラインでの情報戦の効果を誇張しているようにも思えるからです。

映画の中でも説明されているように、ケンブリッジ・アナリティカがターゲットとしたのは、「EU離脱か残留か」「トランプかクリントンか」について態度を決めかねている数%の人々のみのようです。つまり、浮動票を相当程度動かしたのが事実であったとしても(その効果についても疑問視する声はあるようですが)、それ以前に、少なくとも国民の半数近くがEU離脱やトランプ氏を支持していたことは間違いないわけです。


(中略)


川端氏はブレクジットやトランプ大統領が当選した選挙で、陰謀論が跋扈していることについて、違和感を示した上で、陰謀論に傾倒すれば出来事の本質を見誤ると指摘しています。


さらに、


もちろん全ての陰謀論が不合理なわけではないのですが、陰謀論は往々にして一面的な説明になりがちです。これは、グレイ氏の話とは逆の「新自由主義者の陰謀」についても同様でしょう。新自由主義的な政策を「陰謀」的に推進する人々は、もちろんたくさんいるはずです。しかし同時に新自由主義というのは我々の「時代精神」のようなものでもあると考えるべきで、「一部の悪人が闇の世界から我々を操っている」という説明だけで満足するわけにはいかないと私は思います。


(後略)


とした上で、陰謀の存在は認めるとして、それは無数に存在しており、むしろなぜその陰謀が実現するに至ったのかを考えると、そこには社会構造や歴史の趨勢などの動かしがたい社会の動きがあることに思考を向ける必要があると書かれています。


慎重かつ地に足の着いた意見だと思います。


この広い世界を、陰謀を抱くごく少数の人々で動かすのはほぼ不可能に近いでしょう。


であれば、それ以外の大多数の人々の影響なくしては世の中は動きません。


この考察が正しいとすれば、世の中を良い方向に動かすのも、悪い方向に動かすのも大多数の人々に属する自分たちにかかっているということです。


こうした緊張感を持つことが、世の中をより良い方向に進めるための一要素だと僕は思います。


例えば、日本で20年以上続く緊縮財政も、確かに財務省などが自らの利益のためにそれを意図的に続けさせている部分はあるかと思います。


しかし、その緊縮財政がこれほどまで長期間続くのは、世論が圧倒的にその方針を支持しているからにほかなりません。


「国の借金で破綻する」という言説を多くの人が信じ込み、財政再建は待ったなしだと緊縮財政を支持する。


仮に財務省などが緊縮財政を進めようと陰謀を抱いても、それを実行するには大多数の人が同意しなければなしえないのです。


…。


確かに、陰謀論には不思議な魅力が付いて回ります。


なぜなら、何かの出来事について考える際に、「これは○○が仕掛けた陰謀だ!」と決めつけてしまえば、それ以上は何も考えなくいいからです。


思考停止ですね…。


陰謀の存在を認めつつ、それにとらわれることなくなぜその陰謀が実現したのかを多面的に考える。


こうしたバランス感覚のある思考を身に着けたいですね。


川端先生、大変勉強になりました!



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